中小企業の思いをつなげるために事業承継・引継ぎ支援センターの活用を
中小企業は多様な技術やノウハウを誇り、わが国の経済・社会・文化までも担う重要な役割を果たしています。わが国全企業数の約90.7%(小規模事業者は約85%)、従業員数の約69%(小規模事業者は約20%)を占めている中小企業の技術や活力を維持し発展していくためには、事業価値を次世代に引き継ぐ事業承継が不可欠といえるでしょう。そこで中小企業の事業承継をサポートする公的機関「福岡県事業承継・引継ぎ支援センター」の新統括責任者に就任した松岡守昭氏に事業承継をめぐる課題や取り組みについて伺いました。
事業承継は待ったなしの状況に
中小企業の事業承継を取り巻く現状について。
松岡:いわゆる団塊世代が75歳を迎え、医療や福祉をはじめさまざまな分野に影響を及ぼすとされる2025年問題は、事業承継も例外ではありません。17年12月の政府の試算では、25年には70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万社となり、約半数の127万社(日本企業の3分の1)が後継者不在による廃業・倒産の危機に直面するなど影響を受けるとされています。127万社が廃業となれば、約650万人の雇用が失われ約22兆円のGDPが消失という、わが国の産業や経済に多大な損失を与えかねない状況にあることを示しています。
熟練の技能やノウハウを有する職人を抱える中小企業が倒産や休廃業を重ねていくとこれらの経営資源が引き継がれず世界における日本の競争力低下につながりかねません。地域経済を支える雇用や技術が維持され持続的に発展していくためにも、円滑な事業承継を行うことが重要となります。団塊の世代全員が75歳を迎える25年を目前に控えるなかで、通常数年は掛かるといわれる承継期間を加味すると、事業承継は待ったなしの状況と言えるでしょう。
地域経済の活性化と雇用確保に貢献
その中でセンターの役割はますます重要になってきます。
松岡:前記の課題に対処するため、経済産業省は2011年から「総合的な事業承継支援窓口」として全都道府県に順次センターを設置。各センターは「親子間等の親族承継」「信頼できる従業員等への社員承継」「第三者承継」等の事業承継に関する相談にワンストップで対応しています。
当センターは23年1月末現在、「親族承継」の成約件数は全国トップ、第三者承継(社員承継含む)は4位となっています。
取り組みにあたっては福岡県と当センターを中核に、各市町村、各地商工会・商工会議所、金融機関、日本政策金融公庫、福岡県信用保証協会、各士業団体など県内169機関参加のもと、県内を福岡・筑後・北九州・筑豊の4エリアに分け、それぞれに当センターからエリアコーディネーターを派遣。これら支援機関と密に連携しながら丁寧なサポートに取り組んでおり、雇用確保や地域経済活性化にも貢献してきたと考えています。
事業承継の最近の傾向は。
松岡:従前は、親族や従業員への承継が主流でしたが、近年は社外の第三者に承継するM&Aが加速しています。M&Aと聞くと、大手企業のイメージがありますが、実際は中小・小規模企業間でも活発に行われています。不動産の「居抜き物件」にはなじみがあると思いますが、M&Aは「居抜き物件」に伝統の屋号や取引先の信頼、従業員やノウハウ等の貴重な資産を詰め込んだ取引ともいえます。そう考えると、M&Aを少し身近に感じていただけるのでは、と思います。
業績不振で廃業を考えられている会社であっても、他社がその事業に魅力を感じるケースも多々あります。近年、業績が厳しい事業を再生する手法としてもM&Aが活発に用いられています。
承継の総合病院として家族まで守る
足を運んでの相談はハードルが高いと思う人もいるのでは。
松岡:私たちが目指すのは誰もが気軽に相談できる場所です。事業規模や業況、財務内容に関係なく窓口を開いておりますので、具体的な計画やイメージをお持ちでなくても、まずは気軽にご連絡いただければと思っています。
当センターは内部スタッフだけでなく、士業専門家や民間のアドバイザーなど数多くの機関とネットワークを形成し対応していますので、仮に相談時点で事業承継に結びつかなくとも経営改善や将来の承継につながる視点をご提供できるものと考えています。
最後に新統括責任者に就任しての抱負を。
松岡:相談者に伴走し対話を重ねるなかで、第三者から親族案件に、従業員から第三者になど、案件が複雑にシフトすることも珍しくなく、お互いの本音を引き出しながら人と人とをつなぐ緩衝材としての役割を担うことが重要だと考えています。
その上で、相談者はもとより県内中小支援機関の承継・引継ぎ支援分野の共通プラットフォームとしての役割やネットワークの要としての機能を果たしつつ、多様かつ複雑な案件にも対応可能な「事業承継支援の総合病院」として、経営者や従業員そしてその家族を守る役割を果たせるよう、さらに強固な体制を構築し、期待にお応えできるよう尽くしてまいります。


