人と思いをつなぐ使命 事業承継の「総合病院」
経済産業省は11年から「総合的な事業承継支援窓口」として全都道府県に順次事業引継ぎ支 援センターを設置。加えて21年4 月には主に親族承継を支援してきた「事業承継支援ネットワーク」機能がセンターと統合され事業承継に関するワンストップでの相談体制が確立された。
業務内容の拡充に伴いデータベースを活用したマッチング支援体制が充実したことで、「福岡県事業承継・引継ぎ支援センター」の22年度実績は、全国48センター中「親族承継」の成約件数にて全国トップ、社員承継・第三 者承継を含めた総合成約件数でも全国第1位となり、雇用確保や地域経済活性化にも貢献してきた。
好成績につながつた背景として、 福岡県と同センターを中核に、各 市町村、各地商工会・商工会議所、金融機関、日本政策金融公庫、 福岡県信用保証協会、各士業団 体など県内169機関で構成されたネットワークのもと、県内を福岡・筑後・北九州・筑豊の四つのエリアに分け、それぞれに同セン夕―からエリアコ―ディネーターを派遣し、と りわけ各地区 の商工会議所・商工会の経営指導員との連携を密にし、事業承継案件の丁寧な掘り起こしに取り組んできた ことが挙げられる。
現在、同センターに寄せられた累計相談・成約件数はそれぞれ4000件・430件を超え、統合前の20年度は488件であった相談件数は昨年度847件、さら に本年度は昨年度を大きく上回 るぺースで寄せられている。従前の承継では親族や従業員が主流 となっていたが、近年は社外の第三者に承継するM&Aが加速している。
松岡守昭統括責任者は「経営者の方々には、M&Aを常に経営の選択肢として捉えていただきたい。M&Aと聞くと大手企業のィ メージがあるものの、実際は中小・零細規模の企業間でも活発に行われている。例えば、不動産の居抜き物件にはなじみがあると思うが、M&Aは居抜き物件に伝統の屋号や取引先の信頼、 従業員のノウハ ウなどの貴重な資産を詰め込んだ取引であり、 そのように捉えると身近に感じ られると思う。当然、一定の規模を持つ企業にと っても、新規事業の立上げや事業分野の拡大を図る際、M&Aは有効な手段となりうる」と説明する。
その意味で同センターが目指すのは「誰もが気軽に相談できる場所」。事業規模や業況、財務内容に関係なく窓口を開いており、具体的なイメージがなくても気軽に相談できる体制を整えている。内部スタッフだけでなく、士業専門家や民間アドバイザーなど数多く の機関とネットワークを構築し対応しており、仮に相談時点で事業承継に結びつかなくても経営改善や将来の承継につながる視点を提供することができるのも強みだという。
松岡統括責任者は「相談者に寄り添い対話を重ねるなかで、親族から第三者への承継に、従業員から第三者への承継に、またその逆など、案件が複雑にシフトする ことも珍しくなく、お互いの本音を引き出しながら人と人とをつなぐ緩衝材としての役割を担うことが重要だ」と力を込める。
多様かつ複雑な案件にも対応可能な「事業承継の総合病院」 として、相談者はもとより、県内中小支援機関の承継・引継ぎ支援分野のフラットフォームとしての役割やネットワ―クの要としての機能を果たしつつ、経営者や従業員、その家族を守る役割も果たせるように、さらに強固な体制を構築し、期待に応えていく方針だ。
“経営を未来につなぐ“豊富な支援実績が強み
タナベコンサルティング(東京・大阪市)は、事業承継業務やM&A業務に加え、経営コンサル ティング全般における専門スタッ フを配置し、きめ細かな対応力で顧客ニースに応えている。
同社は事業承継が一般化する中、「MIRAI承継」という新たな名称を打ち出し、「経営を未来につなぐ」をコンセフトにブラ ンディングを進めている。これまで上場企業を含む大企業・中堅企業における数多くの事業承継などに携わってきた九州本部の中須悟副本部長は「価値観の多様化によって事業承継の選択肢も広がりを見せ複雑化している。 従来主流であった同族継承が減少し、内部昇格やM&Aが増える傾向が強まっている。正しい組み合わせを選択するためにも経営者の価値観に基づく長期的なストーリーを描くことが重要」と話す。
経営者の決断に対して、事前に社風や考え方、今後の目指すベ き方向性を把握することで、議論を交えながら寄り添い、共感する ことに同社は最も力を入れている。 また、税務関係や法務関係についても、専門家である地元の税理士事務所や司法書士事務所などと・・・


