福岡県事業承継・引継ぎ支援センター統括責任者 松岡守昭氏に聞く 中小企業経営者の想いを次世代へ
事業承継・引継ぎ支援に向けたセンターの取り組み
国内における全企業数の99.7%を占め、総従業員数の70%(※)を占める中小企業。「日本経済の立役者」と表現しても過言ではない存在ですが、経営者の高齢化や適切な後継者が見つからないことなどから、廃業する企業数も増加傾向にあります。そこで国・経済産業省は、公的相談窓口「福岡県事業承継・引継ぎ支援センター」を通じて、中小企業の事業承継に関するあらゆる相談に対応中です。福岡県の事業承継の現況と課題、同センターの取り組み内容などを、松岡守昭統括責任者に聞きました。
事業承継・引継ぎを巡る環境は?
松岡:いわゆる団塊世代が75歳を迎え、医療や福祉をはじめさまざまな分野に影響を及ぼすとされ、2025年問題は、事業承継も例外ではありません。17年2月の政府試算では、2025年には70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万社となり、約半数の127万社(日本企業の3分の1)が後継者不在による廃業・倒産の危機に直面するなどの影響を受けるとされています。127万社が廃業となれば、約650万人の雇用が失われ、約22兆円のGDPが消失という、わが国の雇用や経済に多大な損失を与えかねない状況にあることを示しています。団塊の世代全員が75歳を迎えようとするなかで、通常数年はかかるといわれる引継ぎ期間を加味すると、承継は待ったなしの状況といえるでしょう。
前記の課題に対処するため、経済産業省は「総合的な事業承継支援窓口」として2011年から全都道府県に順次センターを設置。各センターは「親子間等の親族承継」「信頼できる従業員等への社員承継」「第三者承継」等の事業承継に関する相談にワンストップで対応しています。
当センターは福岡県とともに中核となり、各市町村、各地商工会・商工会議所、金融機関、日本政策金融公庫、福岡県信用保証協会、各士業団体など県内169機関参加のもと、事業承継支援ネットワークを形成し、県内を福岡・筑後・北九州・筑豊の4エリアに分け、当センターからエリアコーディネーターを派遣するなど各支援機関と密に連携しながら丁寧なサポートに取り組んでいるところです。
具体的にどのような相談が多いのか? 近年の相談の傾向は?
松岡:当センターへ寄せられる相談事業は業種や規模に関わらず多種多様です。ただし、民間のM&A仲介会社と比較すると、小規模の事業者や債務超過の事業者の割合が多いのではないかと推測しています。
直近では、コロナ禍が落ち着いたあとも業績が回復せず相談にみえるケースが増加しており、当センターのご相談では、事業者の約半数が直近赤字、約45%が債務超過の状態にあります。中には清算や倒産を選ばざるを得ない事業者もありますが、早期の相談で事業承継という道が開ける事業者も数多くあります 。事業承継を一つの選択肢として、できる限り早期に気軽にご相談いただきたいと考えています。
そのような小規模、もしくは経営状況が厳しい事業者について、どのように承継に結びつけているのか?
松岡:事業の規模や経営状況に関わらず、企業が有する事業の付加価値を見い出すことに努めています 。例えば、経営状況が悪くとも人やモノ等の経営資源が揃っていれば、事業の価値を見い出す譲受側企業もあります。ゼロから新規事業を立ち上げるより、経営資源が揃っている事業を譲り受けた方が経済的、時間的メリットがあるためでしょう。
これまでの当センターの成約実績からすると、譲渡側企業の財務状況は、黒字かつ資産超過であった企業は53.4%であり、その他は前年赤字かつ債務超過を抱えています(もしくは赤字かつ債務超過)。赤字や債務超過の企業も数多く成約していることが分かります。
近年、スモールM&Aという言葉が話題になってきたように、中小・小規模企業間での第三者への承継(M&A)が活発化しています 。これは、小規模な事業や経営状況の厳しい事業にも他企業が十分に価値を見い出しはじめたということを表しています。
当然、全ての企業を解決できるわけではありませんが、センターがこれまで蓄積してきたノウハウやネットワークを活用することで、仮に赤字経営・債務超過という厳しい状況でも「スモールM&A」を活用したM&A等による解決の道を探ることが可能であり、「自社なんてとても・・・」など、自ら規制をかけることなく、一日も早い相談によりその選択肢をさらに広げることができるとも考えています。
親族承継関連はどうですか?
松岡:国は、事業承継を円滑にすすめるため、事業承継時の贈与税・相続税負担を実質ゼロにする時限措置である「法人・個人版事業承継税制の特例措置に係る計画の提出期限の延長」を決めました。
親族承継は時代の流れとともに年々低下していますが、その根底には事後性の乏しさによる後継者の不安や親子間のコミュニケーション不足をはじめさまざまなネックとなる事象が見て取れます。特に経営上とはいいながらも多額の借入金を子どもに背負わせていいのかという葛藤が承継先送りの大きな要因となっています。とはいえ手を打たなければ進展はないことから、円滑な引継ぎには企業価値を向上させる**「磨き上げ」のための計画づくりが不可欠。事業承継に精通した専門家を交え親子間で一緒に構想を取りまとめたうえで、早めにバトンタッチすることで親子が伴走しながら課題に対処し成長していくことができると考えています。
センターの意気込み
松岡:先祖代々受け継いできた家業や、自らが人生をかけて作り上げてきた事業が、意に反する形で自分の代に途絶えてしまうというのは非常に忍びないことです。
多くの経営者にとって、事業承継は最初で最後の経験となるものであり、よく分からないことばかりでありながら、相談するには少しばかり敷居が高い分野かもしれません 。センターは中小企業のために存在している公的支援機関です。どんなことでも安心してご相談ください。
合わせて、これら地域の支援を加速させるためには、早急に事業承継を支援するプレイヤーの裾野を広げる(地域が自走可能な支援体制を整備)ことが不可欠であり、2024年度はセンターによる研修会の実施やOJT形式での育成等を通じて、ハブ機能や広告塔機能等を担う基礎自治体(市町村)や第三者承継支援を中心とする地域支援機関等の専門スキルの向上強化を図ってまいります。合わせて、国が設置した中小企業支援機関である福岡県中小企業活性化協議会やよろず支援拠点とも連携し、企業それぞれの課題に的確に対応できるよう努めて参ります 。さらに、通常のM&Aよりも互いに顔が知れた関係にあるサプライチェーン全体の維持・発展に向けて、サプライチェーンを持つ中核企業等にM&Aへの気づきを与える取り組みも促進していきます。
これらを通じ、「知っていたら相談していたのに」と後々いわれることのないよう、基礎自治体(市町村)をはじめ、県内の支援機関との連携を今後さらに強固にし、認知度向上および事業承継・引継ぎ支援の拡充に努めて参ります。


