面的に広がる事業承継支援機関の連携を密に
国や経済産業省は、2011年から「総合的な事業承継支援窓ロ」として、全都道府県に事業承継・引継ぎ支援センターを順次設置、親族承継から社員承継、第三者承継まで、中小企業の事業承継に関するさまざまな相談にワンストップ対応している。
「福岡県事業承継・引継ぎ支援センター」は、福岡県とともに中核となり、各市町村、各地商工会・商工会議所、金融機関、日本政策金融公庫、福岡県信用保証協会、各士業団体など県内169機関参加のもと、事業承継支援ネットワークを形成。県内を福岡・筑後・北九州・筑豊の四つのエリアに分け、それぞれに同センターからエリアコーディネーターを派遣し、各支援機関と密に連携しながら丁寧なサポートに努めている。相談件数は922件(23年度)成約件数 は127件(同)と順調に推移、全国48センターのなかで、ともに全国3位の数字となっている。
特徴としては、相談の対象となる業種や規模は多種多様だが、 民間のM&A仲介会社と比較すると、小規模な事業者や債務超過の事業者の割合が比較的高い傾向にある。また、各商工会議所や商工会会員がボリュームゾーンとなる「スモールM&A」への対応も積極的に取り組んでいる。
松岡守昭統括責任者は「公的支援機関として当センターのサポートを通じた承継を加速し、地域経済の維持・発展に貢献していくことが重要」と話す。また、「こうした支援加速のためには、早急に事業承継を支援するプレーヤーの裾野を広げることが不可欠」として、同センターがこれまで実施してきた地域支援機関を対象とした専門スキルや支援力向上のための勉強会やOJT形式での育成、セミナーなどを、24年度から基礎自治体(市町村) に向けての拡大にも努めており、現在、福岡市、北九州市、大牟田市、古賀市、うきは 市などとの連携を深めている。 併せて、国が設置した中小企業活性化協議会やよろず支援拠点との間で、円滑に相談案件を橋渡しできる体制を構築していく。
さらに、「サプライチェーン事業承継」にも注力していく。これは、事業承継が個社だけではなく、業界や地域社会全体の課題として捉えるということである。例えば、ある企業が廃業すると、その仕入れ先や販売先の企業と いった業界全体の流れが分断されるため、その影響は深刻だ。これを防ぐには、サプライチェー ンを構築する企業同士で見守り、 廃業の前に対策を打つことでサプライチェーンを維持、強固にしていくことが重要になる。個社だけではない、事業承継の面的な広がりにつなげることで、業界、引いては地域産業を包括的に守り、発展させていくことが期待されている。この推進のため、 同支援センターではセミナー、講演などを通じて、普及・啓発活動を強化し、サプライチェーンを持つ企業などに事業承継の気づきを与える取り組みを進めている。 松岡氏は「M&Aと聞くと大手企業のイメージがあるものの、 実際は中小・零細規模の企業間でも活発に行われている。M&A を常に経営の選択肢として捉えていただき、できる限り早期に気軽にご相談いただきたい」と力を込める。早期の相談で事業承継 という道が開ける事業者も増え ているという。県内支援機関との連携を密にしながら、同センターの認知度向上と事業承継支援の拡充に努めていく方針だ。


